I. あいさつ
学会員の皆様、いかがお過ごしでしょうか。各現場でも新型コロナウィルス対応でご苦労なさっているのではと推察します。第6波では子どもに関わる現場で特にご苦労があったのではと思います。甲南大学は、ウィズコロナと言っていいのでしょうか、桜も美しい比較的日常に近い年度初めとなっています。私にとって退職前の最後の年度を迎えて気持ちを引き締めています、と言いたいところですが、ここ 2 年コロナに振り回されてきましたので、忙しさと共に日常感を楽しんでいる感覚です。退職後の来年度までゼミを担当することになっていますので、なおさらそう感じるのかもしれません。
私が着任した頃は、まだ臨床心理士制度もなく、少人数の大学院生と心理学研究室(当時三つの小部屋からなっていました)を使って細々と臨床実践を行なっていました。しかし、臨床心理学を中心とする大学が少ない時代にあって、臨床心理学の人気を背景に急速に受験生、合格者の数が増加し、皆様がご存知の大所帯となっていきました。その辺りの経緯は、カウンセリングルーム紀要の最終号に書きましたのでご覧いただければありがたいです。ご自身が在学した頃をその経過に重ねて振り返っていただけると思います。新 18 号館が完成するまでの過程、あるいは完成後の引っ越しなどでは、当時在学されていた大学院生の方々に大活躍していただきました。この場を借りてお礼申し上げます。
ルーム紀要の文章は 18 号館が完成して新しい体制になった頃で終わっていますが、大活躍といえば、18 号館に移ってからのそれぞれの時代も同様です。臨床心理士課程もそれぞれの時代の大学院のあらゆる活動も、また院生の方々が参加された様々の研究会も、大学院生の存在あって成り立っていたものだと振り返って思います。私が現在再び所長を務めています人間科学研究所の活動も、甲南大学で開催した学会の運営も同様です。大学院生にご負担をかけたこともあると思います。それらすべてについて参加くださった方々に感謝したいと思います。
私にはまだ 1 年の勤務が残っておりますし、甲南大学の心理学教育は今後も続いていきます。公認心理師養成センターという組織が設立されて、公認心理師養成も続いていきます。今年も、今後も甲南大学の心理学の活動を見守ってくださればありがたいです。
会長 森 茂起
II. 第 24 回大会 「風景構成法の現在」案内
風景構成法は甲南心理臨床学会会員にとってはなじみの深い技法であると思います。考案者の中井久夫先生が、さらに初めて風景構成法のモノグラフを著した皆藤章先生もかつて甲南大学で教鞭をとられていたこと、また甲南大学学生相談室の高石恭子先生も『風景構成法 その後の発展』という本の中に「風景構成法における構成型の検討―自我発達との関連から」という論文を寄せておられたことから、先生方が風景構成法について語っておられる場面を目にしたことがある会員も少なくないのではないでしょうか。箱庭療法、投影法、描画法を実践されている先生が他にもおられたことで、心理臨床の訓練の過程でこれらの技法に触れる機会も多かったことと思います。そのためか、甲南大学卒業生・修了生の中にも風景構成法で論文を書いたり、学会発表をされた方も多数おられます。
しかし、近年国家資格である公認心理師ができる前後あたりから、風景構成法をはじめとする描画法、ロールシャッハ・テストなどの投影法検査、さらに箱庭療法などは客観性やエビデンスに乏しいため、あまり顧みられることが少なくなっているようにも感じられます。たとえば『公認心理師技法ガイド』(下山晴彦ほか編、文光堂、2019 年)をみると、目次、索引に風景構成法の名はなく、本文に数行の解説がなされているのみです。
それでも臨床の現場ではまだまだ風景構成法の有用性は高く、当初は統合失調症者の箱庭療法の適応を見るために作り出され、その後統合失調症者の治療・精神病理構造の解明をめざすことで用いられてきた技法でしたが、現在では多様な疾患・病態の者、幅広い臨床場面で用いられています。
今回の大会では、著書『風景構成法のしくみ 心理臨床の実践知をことばにする』(創元社、2012 年)で、風景構成法の有効性についてさまざまな角度から検討した佐々木玲仁先生をお迎えして、風景構成法の現在とこれからの可能性について考えたいと思います。佐々木先生もまた、甲南大学学生相談室のカウンセラーとして一時期甲南大学に勤務されていたことがあります。
シンポジウムでは、甲南心理臨床学会会員による風景構成法の臨床現場における実践を紹介し、風景構成法が現在どのように用いられているのか、その有用性と限界、使用に際しての留意点などについて検討したいと思います。
事例検討会では、佐々木先生の共同研究者でもある鈴木純一先生に風景構成法を用いた事例についてご発表いただき、佐々木先生を交えて会員で広く検討したいと思います。
風景構成法について検討することは、単に一技法についての考察にとどまらず、日常の臨床における心構えや取り組みの姿勢について多くの示唆を与えてくれるものと考えます。
今年度の甲南心理臨床学会第 24 回大会は、昨年度第 23 回大会に引き続き Zoom によるオンライン形式での開催を予定しています。以下の案内をお読みになった上で、申し込み、参加をお願いいたします。会員のみなさまのご参加を心からお待ちしております。尚、本大会も従来通り、日本臨床心理士資格認定協会のポイントを申請予定です。
●○ プログラム ○● 日 程:2022 年 7 月 10 日(日) 会場:オンライン開催
10:00~12:30 シンポジウム「風景構成法の現在」 (2 時間半)
12:30~13:00 総 会 (30 分)
13:00~14:00 休 憩
14:00~17:00 事例検討会 (3 時間)
※1 研修証明書は後日メールに添付ファイルで送付します。
※2 参加申し込みの最終締切は 6月 10 日(金) です。事務作業の都合上、早めの申し込みをお願いいたします。
III. シンポジウムおよび事例検討会ご案内
シンポジウム 風景構成法の現在
シンポジスト : 新道 賢一 先生 (関西医科大学精神神経科学教室)
発表者は、大学病院精神神経科の外来・病棟で心理検査の業務を担当しています。WAIS を中心にいくつかの人格検査、ときに神経心理学的検査も交えながら患者がどのような人であるのかを見立て、患者に心理検査結果を伝え、心理検査を依頼した医師に診断・治療のための資料を提供します。結果はデイケア、作業療法のスタッフ、さらにはリエゾン、コンサルテーションの場合は他科の医師やコメディカルスタッフとも共有されることもあります。
風景構成法は、他の心理検査では見られない被検査者の特徴を示してくれることが多く、発表者の中では実施しないという判断も含めて、日常の臨床で欠かせない技法となっています。
今回の発表では、発表者が実施した風景構成法の構成型を WAIS-IIIと併せて検討し、風景構成法は何をみているのかを再考するきっかけとしたい。
シンポジスト : 荻野 基介 先生 (甲南大学心理臨床カウンセリングルーム・垂水病院)
私が勤務する復光会 垂水病院は昭和 36 年の設立当時から「中毒性精神疾患」(依存症)の専門医療を提供してきた歴史を持ちます。主な対象はアルコール依存・薬物依存ですが、ギャンブル依存・クレプトマニア(病的窃盗)などの受診例も散見されます。近年の依存症治療の主流は認知行動療法をベースとする心理教育・グループワークそして A A・断酒会に代表される自助グループの参加でしょう。治療・療養の中ではさまざまな自己表現は非常に重要ですが、どうしても言葉での言語表現に頼るところが大きいと思われます。このような認識から非言語での表現方法の一つとして、あるグループ療法の際に風景構成法を導入しました。まだまだ試行錯誤の取り組みですが、一風変わった実践例の一つとして報告させて頂きます。
指 定 討 論 : 佐々木 玲仁 先生 (九州大学大学院人間環境学研究院)
われわれ心理臨床家や臨床心理学研究者は、風景構成法のことをどれくらいわかっているのでしょうか。どれくらいといってももちろん数量で表わせるものではないのですが、仮に風景構成法について言語化あるいは明示化可能なものの総量が仮定できるとしたら、われわれ人類はそのうちどのくらいを既に明らかにしていると言えるのでしょうか。
総量がわからない以上単なる勘に過ぎないことなのですが、私は、だいたい 15%くらいなのではないかと思っています。そして残り 85%は手付かずで残っていて、さらにその先に、言語化できない、暗黙のうちにしか知ることができない領域が果てしなく広がっている。こう考えると、「風景構成法の現在」は「85%の『耕作可能な未耕作地』とその向こうの深い森を前にたたずんでいる人」ということになるでしょうか。この「人」について尋ねられたら、私なら「これから耕してもいいところがまだこんなに残っているなんて何てラッキーなのだ、しかもその先にあんなに深くて美しい森もあるぞ、あの中を散歩するのも楽しそうだ、と思ってわくわくしている人」と答えるのではないかと思います。シンポジウムでは発表者お二人の森の旅の記録をお聴きでき、フロアのみなさんとともに議論できることを楽しみしています。
司 会 : 三宅 理子 先生 (東海学園大学)
事例検討会
事 例 発 表 : 鈴木 純一 先生 (札幌刑務所)
私は、刑事施設で勤務する法務技官です。主な業務は、被収容者に対して行われる総合的なアセスメント業務である処遇調査ですが、被収容者と継続的に面接を行うことも時々あります。今回のケースでは、他職種(医師、刑務官、福祉士、心理士等)が連携して短期集中的に行われた治療プログラムの一環として、風景構成法を用いた受刑者との継続的な面接過程について示したいと思います。受刑者は当初、統合失調症疑いの診断を受け、陽性症状も活発な様子でしたが、今回のプログラムの経過に伴って比較的落ち着いた様子を見せるようになっていきました。風景構成法が、今回のケースの展開に与えた影響について、皆様と一緒に考えていけたらと思っています。
コ メ ン ト : 佐々木 玲仁 先生 (九州大学大学院人間環境学研究院)
司 会 : 南部 勝彦 先生 (心理相談室 風花(かざはな))
IV. 参加申し込み
同封の払い込み用紙に、お名前、ご住所等をご記入の上、同封の払込用紙で必要金額を払込むとともに、甲南心理臨床学会事務局 office@kacp.info に、本文にお名前とご所属と大会当日の Zoom 入室先アドレスの連絡を受信可能なメールアドレスを、件名に「第24 回大会参加希望」と記入したメールでお知らせ下さい。入金の確認をもって参加予約とさせていただきます。 なお、必要費用の払込みにつきましては事務の都合上、勝手ながら、6 月 10 日(金)までに 完了していただきますようお願い申し上げます。学会運営の簡略化のため、何卒ご協力よろしくお願いいたします。本大会は、毎年、(財)日本臨床心理士資格認定協会より、臨床心理士教育・研修規定別項第2条第4号に規定する教育研修機会として承認されており、本年も申請を行うこととしております。本大会に参加された方は、受講者として 1 ポイントを取得できます。 (今年度からオンライン研修のポイントが改定されています)
会費: 大会参加費 : 1000 円
年会費 : 3000 円